プロレスという競技ならではだなということを感じることがしばしばあるんだけど、そんなことの一つが3月1日に開催されたオールスタージュニアフェスティバルだ。
新日本プロレスの高橋ヒロムが呼びかけたことで実現したわけだけど、普段見ないインディ団体から一昔前であればあり得ないであろう団体同士の交流があって、長く見ているファンにとっても最近見始めたファンにとってもとても面白いイベントだったんじゃないだろうか。
ヒロムは昔からジュニアを主役にすると言い続けていて、しかし年始のドーム大会はやはりヘビーの試合になるし、象徴と言われるのは常にヘビーの選手である。
ただ、ある意味それは歴史的経緯も含めて仕方ない部分もあるように思う。
非日常を見せるのがプロレスの魅力の一面だと思うが、普段なかなか出会うことのない馬鹿でかい奴らが凄まじいスピードとパワーでとんでもないことをやっているというのが面白かったり、驚きだったりするから、乗り越えることが不可能な特別感を持った人たちであることがプロレスラーの一つの条件みたいなものだったし。
実際、元を辿ればフィジカルで西欧人には敵わないと言われる日本人においては、大きいということ自体が特別な存在感につながるわけだし。
ジャイアント馬場はその名の通りでかいことが大きな強みだったわけだから。
しかし、やっぱり選手層でいえばジュニア(100kg以下)の方が圧倒的に多いし、上背や体重がないだけで身体能力バケモノみたいな人はかなりいる。
実際世界中で活躍している選手は、ジュニアクラスの選手がゴロゴロいる。
インディ団体と呼ばれる彼らも、元はと言えば体格的にどうしても受け入れられなかった人らが立ち上げたところが出発点だろうから、別にメジャーじゃないからと言ってレベルが低いわけではないわけだ。
実際今回こうしてジュニアをテーマに多くの団体が集まった時に明らかになったのは、闘龍門という団体の凄さである。
かつて逆輸入と言って持ち込まれたウルティモ・ドラゴンの立ち上げたこの団体は、システム含めて素晴らしいプロレスラー養成機関になっているということだろう。
今新日本でトップを張るオカダ・カズチカはじめ、鷹木、石森、解説席で名物になりつつあるミラノなんかは有名なところか。
メジャーと呼ばれるところもそうだし、今インディー各団体でトップを張るレスラーも闘龍門出身者が多い。
昔はほとんど外交をしない団体だったけど、最近はノアはじめ交流も増えているから、ますます存在感をましているだろう。
それはともかく、そんないろんな繋がりも見えてくるところもあって、とにかく面白かった。
スポット的なイベントなので、お祭りムードも強かったのでめちゃ良かったね。
新日本が主催という形なので、勝敗についてはまあ思うところはあるけど、プロレス界の底上げ、というよりは緩やかな統一を狙っているようにも感じるところだ。
女子ではスターダムがまさにそうなっているが、ブシロードの手腕なんだろうなと思う。
前置きが長くなってしまったけど、どの試合も見どころ満載だったので、ざっと振り返り。
本当なら会場でみたかったな。
今回第0試合があったのだが、こちらも事前発表なし。
新日本のYOHを含む6人タッグマッチだ。
私は他のレスラーは知らなかったが、そのうちの1人はバトラーツを名乗り、師匠はなんと澤宗紀。
今は一般人になったが、たまにリングに上がっているが、それはともかくさすがの当たりの強い選手だ。
第0試合だが選手の熱量も高く、普通に第1試合でよくねぇか?と思いつつ、開始前の前座的に場をあっためるのは大事だよね。
最後はYOHが決めただけど、早々にテンションをぶち上げられる。
程なくして本戦開始。
今回試合順については非公開、始まるまでわからない方式をとっていたのだけど、第1試合、1人目に登場したのはなんと今回の首謀者、高橋ヒロムである。
6人タッグだが、先にノアでシングルをやったかつてのパートナー、AMAKUSAと先ごろ大病から復帰を果たしたみちのくプロレスのフジタJrハヤトだ。
対するは前段で一悶着あった後ラドンゲートのYAMATO、そしてNoahのHAYATAに大日本の橋本だ。
まさかYAMATOとヒロムのカードが見られるとは。
何気にHAYATAとのマッチアップもなかなかのレアである。
個人的には先のシングル後にタッグ組みそうとか思っていたAMAKUSAとは早々に組むし、フジタについては誌面でしかみたことなかったが、その生き様はこれぞプロレスラー、良くぞ生きて復帰したと思うよね。
試合は序盤からやっぱりみんなテンション全開、YAMATOとヒロムで始まったんだけど、新日しか観たことない人にはぜひ知ってほしいレスラーの1人がYAMATOだ。
昔にBOSJには出場したことがあったものの、だいぶ間が空いているので記憶にはないだろう。
2人が向かい合っているだけで嬉しくなってしまう。
またHAYATAも喋らないキャラなのにニヤニヤが止まらない感じがあって、そういうのはいいですよね。
そして橋本和樹は初めて観たが、当たりの強い選手だね、さすが大日本。
フジタとの絡みが多かったが、こちらも打撃主体の選手なので非常に噛み合っていてよかったね。
試合はフジタが橋本を倒して3カウント、試合時間はわずか9分未満と短かったので、やっぱり物足りない。
ちなみに、最後はヒロムが取るかと思ったが、ここは多分ヒロム自身の意思で何かしらあったのかなと思う。
以降の試合を見ても尚更ね。
ともあれ、これをきっかけに各団体の交流ができれば面白いよね。
ちなみに、解説にはフジタとも縁のある拳王がいたんだけど、普通にプロレスファンで笑った。
いいやつだよな、ほんとに。
第2試合はまた曲者揃い。
木高イサミ・MAO vs 怨霊・SHOのタッグマッチ。
すっかり子悪党が板についているが、この試合でもそれを発揮。
それはともかく、怨霊って初めてみたんだけど、また変わったレスラーだな。
自ら666を主催、女子プロ界でも出番の多くなっているラム会長もいる団体なんだけど、解説のミラノらもすっとぼけたことを言っているのが面白い。
体重が0kgと話したその後、どう展開しようか迷った挙句スルーするような展開も。
遊んでんじゃねぇよ。
ちなみに、解説席には元DGで、闘龍門時代はミラノとともにイタリアンコネクションとしても活動していた吉野正人の姿も。
彼は関西人だが、ミラノの暴れっぷりにやや驚いているように感じたのは気のせいか。
試合は案の定SHOがやられる展開だが、必殺のトーチャーツールも繰り出す。
しかし、相手には全身傷だらけの木高イサミ、そんなちゃちな工具など問題ではない。
試合後にハードコアを呼びかける場面もあったが、今後どうなっていくかだ。
とはいえ、SHOも体の仕上がりはさすがで、やっぱりそこはしっかりしているよなと思うよね。
続く第3試合は怪我で欠場中の大谷晋二郎応援試合という10人タッグ。
高岩、TAKA、田中稔、金丸、葛西のベテラン組とMUSASHI、LEONA、関札、北村、チチャリートという若手組だ。
ベテランチームは、新日時代のつながりとゼロワン時代の繋がりを中心としたタッグだ。
私が初めて生で観戦したのは、実は橋本真也ありし頃のゼロワンだった。
当時大谷はもちろん、高岩もいて、まだデスマッチをそれほどやっていなかった葛西もいたんですよね。
相手の若手は初めましてばかりだったけど、正直この試合はベテラン組にどうしても目がいってしまう。
高岩とかめちゃくちゃ久しぶりに観たけど、本当にジュニアかと思うような分厚い体はそのままだけど、やはり肉体は年齢を感じたよな。
田中もコンディションのよさを感じたけど、やっぱり金丸がずば抜けて仕上がっている。
年齢的には少し若いかもしれないけど、さすがだよな。
最後は高岩が決めたんだけど、こういう試合もいいよね。
しかし、藤浪2世のLEONAを初めて観たが、肉体、技のキレ、動き、全てにおいて何も魅力を感じなかった。
親父の真似だけでどうにでもならんだろ。
一方で金丸との絡みが印象的だった関札という選手、よく動くし陽気でいい選手ですね。
大日本の選手らしいが、あの団体もデスマッチだけじゃなくてちゃんとストロングな選手も育てている。
ちなみにしっかり竹串刺されてたが。
続く第4試合はこの大会随一のスペクタクル、変態vs変態という異色の試合だった。
この試合が一番インディーっぽさ全開だったように思う。
鈴木みのるの店でも働く、実は元パンクラスの実力者でもある佐藤光留・田口・今成組と、サスケ・タイガースマスク・ばってん×ブラブラという字面から意味不明な集団だ。
サスケはすっかり宇宙人になっているし、佐藤チームは全員童貞を殺すニット(女性用)を着用、ばってんブラブラはディーノの友達か。
見た目的には唯一タイガースマスクがまともに見えるが、彼とて大阪プロレスだ。
試合はある意味ではこれぞプロレスならでは、子供が喜びそうなお下劣な内容だが、地方ではこういうのって大事だよねと思う試合だ。
普段新日本しか見ない人にはどう映ったのだろうか。
なぜかライガーが激推しのばってんだが、得意のギャグが空回り、そりゃ本人も困っただろうな。
途中から意味j不明な展開が続いたが、お祭りだからこそ成り立つカードだ。
でも、みんなちゃんと実力者なんだよな。
続く第5試合は3ウェイタッグ、先のファンタスティカマニア的なルチャの試合。
ボラドールJr・デスペ vs HANAOKA・DOUKI vs リンダマン・上野組だ。
HANAOKAさんは知らんかったが、メキシコが主戦場らしく、かつてDOUKIとタッグを組んでいたそうだ。
デスペもメキシコ遠征した際に絡みがあったようだ。
そしてリンダマンはDDTの上野とのタッグだが、ルチャらしく観客を巻き込んだ展開もあり、ストロングスタイルな展開もありと、バラエティに富んでいたね。
どのレスラーもプレイヤビリティに優れているから、そりゃ展開は安定するし、何よりもルチャモードなので硬軟自在だ。
ちなみに上野という選手も初めてみたけど、動きは流石に良かったね。
若いみたいだし、DDTもなんだかんだいい選手を育てているよな。
続く第6試合もメキシカンな感じで、全員マスクマンである。
個人的に一番嬉しかったのはドラゴン・キッドの参戦だ。
実は私がプロレスを観るようになったきっかけの1人が彼なのである。
確か関根さんだったと思うが、すごい団体があるみたいな感じで当時まだ闘龍門だった団体を紹介しつつ、その中のVTRで出てきたのがドラゴン・キッドだった。
その後深夜に博多スターレーン大会が何故か放送されてそれを録画して何度も見たんだよね。
その時からCIMAはもちろんいたし、ミラノ、吉野がイタリア人だった。
今は全日にいるTARUもいたし、逆にまだ鷹木らははるかデビュー前だ。
ちなみに、メインの試合のコールは当時既に地元の人気者だった博多華丸・大吉の大吉先生であったのだけど、めちゃ恐縮していたのが今でも強く印象に残っている。
キッドは身長が162くらいなのでかなり小型なんだけど、だからどうしても他団体との交流ってあんまりないんだが、こうして他の団体のファンの目に触れるのは嬉しいことだ。
メンバーはミスティコ・グルクンマスク・ビリーケンキッド・アレハンドロ vs ドラゴンキッド・BUSHI・ブラックめんそーれ・アトランティスだ。
さすが後楽園とあってインディまで目配せしたファンもたくさんいたようで、歓声も盛り上がっていてよかったね。
ちなみにミスティコも昔にノアかどこかに参戦していたのを一度見たことがあって、多分すげぇ奴が出てきたとまさに話題になっていた頃なんだと思うけど、当時と同じく独特のふわっとしたムーブがなんとも言えない存在感を放っている。
あれってどうなっているんだろうな。
空中戦が得意なメンバー満載なので、とにかく華やかで面白かったよね。
とはいえ試合時間も短いし、これだけ人数がいるとここの選手の見せ場がどうしても限られてしまうんだけど、ともあれ楽しい試合だったよね。
試合後に記念撮影しちゃうあたりがルチャリブレだ。
そして第7試合、これもまたシークレットカードだったんだけど、なんとCIMAが登場。
ミラノとは色々因縁もあり、なんならGLEATのメンバーとドラゴンゲートのメンバーが混じること自体なかなかの禁忌だと思うが、そこに首謀者CIMAだ。
相手の選手のことは知らなかったが、入場曲はなんとマグナムTOKYOも使っていた曲で、入場パフォーマンスはまんま使っている。
解説席にはミラノと吉野だ。
これがプロレスだよな。
相手の平田選手、どうやらサングラスをかけると曲が流れるということらしいが、なんと試合中CIMAもあの踊りを踊るという展開も。
最近でこそリング上で試合前にパフォーマンスをすること自体珍しくもないが、その先駆けがまさにマグナムTOKYOである。
先の深夜放送で初めて観た時も意味わからなかったものだ。
今何をしているんだろうか。
それはともかく、昔の遺恨が少しでも解けていくような瞬間っていうのは、なんかいいよね。
綺麗事ばかりじゃないけど、感情は既に落ちつている場合の方が多いだろうし、試合後にはミラノとも握手するシーンも。
体こそ流石にかつてのハリはなくなったけど、まだまだCIMAはCIMAだったね。
そしてセミファイナルの第8試合。
5WAYのシングル戦で、参加者は石森、YO-HEY、シュンスカ、ソベラーノ、そしてまさかのニンジャマックだ。
シュンはまだ緑色だった頃に見たことがあったくらいで、マスカレードを組んだと思ったらいつの間にかサイコパスになっていたが、見たいと思っていたレスラーの1人だったのでちょうどよいと。
やっぱり動きはいいし、体もしっかりしている。
かつては小柄な選手が中心だったドラゲーも結構体格的に見劣りしない選手が増えたよね。
線の細さは気になるが、動きはなかなか面白いものをもっている。
とはいえ、この中でも石森の体の仕上がりはやっぱり際立っているよな。
石森に限らず、やっぱり新日本の選手は体の厚みから何からちょっと違う。
体つきが全てじゃないけど、大事な要素だからね。
毎度のことながら試合はあっという間に終わってしまうのだけど、ある意味この大会の狙いはバッチリ果たしているのかもしれない。
もっと見たいぞと思わせる選手満載だし、その印象をしっかり残していく。
そしてメインは発表カードの中では唯一のシングルマッチ、新日本のマスター・ワトvs全日本の青柳。
このカードは新日本にとって一番のメッセージだったろう。
団体の規模はともかく、いうても新日本プロレスと全日本プロレスの2大看板はまだまだ根強い。
その両団体で、若手の期待株が彼らなのだろう。
ワトはさまざまな先輩選手がその身体能力も高く評価しているが、シングルベルトの戴冠はまだないし、新日本のファンからしても若手の有望株くらいの認識だろう。
一方の青柳は既にシングルベルト戴冠れきあり、ついこの間まさに新日本のタイガーマスクと戦っている。
選手層の厚さと言ってしまえばそれまでだが、それは実力とは必ずしもイコールではない。
問題はこの大舞台で何を見せるかだ。
試合は年齢も近いし、キャリアはワトが7年、青柳はまだ4年だそうだ。
これまでのお祭りムードとは打って変わって白熱とはまさにこのことか、といった意地の張り合い、技の応酬と、このイベントを締めくくるにはこれしかないよねという展開だった。
明らかに2人とも目が違ったしね。
ただ、スターダムにおけるNew Blood的な位置付けかなとちょっと思ったのは、次世代のエースをどうアピールしていくかという感じもあったことだ。
ベテラン勢も多く参戦する一方で、対抗戦には若手も多くいる。
試合自体は新日本の選手が締めるものが多かったけど、吉野が解説席にいるということでドラゲーへの目配せも見てとれる。
またレフェリーやリングアナもさまざまな団体から満遍なく選ばれており、この辺りもそうした各団体への配慮、もしくは新日本っぽさを少しでも薄くするという意図があったのかなと思う。
まあ、シンプルにお祭りムードを出すために、そこもバラエティを出したというのが主かもしれないが、プロレスにおけるレフェリーも、その団体らしさを構成する極めて重要な存在だからね。
ただ不正をしないかを裁く他の協議のレフェリーとは根本的に違うから。
ともあれ、試合はワトの勝利となり、試合後青柳は大の字でしばらく動けなかったが、最後は互いに拳を合わせたり言葉をかけたりと、長いこの先を期待させる感じだった。
最後は集合写真を撮って終わったのだけど、非常にいい大会だったね。
ちなみに、リングマットは特別仕様、急拵えで作ったような「ジュニア最高」とだけ書かれていて、意外なところで手作り感が出ている。
また中盤からはヒロム自ら解説席に座って喋っていたんだけど、終始他の選手をアピールするコメントを発していることからも、自分たちの次をどう作っていくかということを課題として見ていたんだろうね。
新日本でもここ何年もジュニアはヒロム、デスペ、石森が中心にいて、最近ようやくワトが頭角を表してきたようなところだ。
それに、他団体でもいい選手はたくさんいるし、特にメキシコでの経験も長いヒロムにしてみれば、もっといい選手いっぱいいるから、新日本の枠に囚われずにそいつらとやっていきたいという思いもあったのだろう。
この辺りはデスペも同じ問題意識だろうなというのは感じる。
ヒロムほどの大胆さはない分、SNSなどでは積極的に他団体の選手とやりとりするなど、彼なりに何か実現したい思いがあるんだろうなという感じはある。
今回は後楽園という規模感もあったとはいえ、平日大会がチケット即完。
ファンからすれば、もっと大きな会場で、土日開催であればもっと集客もできたのにと思うけど、熱量やハクをつけること、また大会の意義を考えるとこの規模感が良かったのかなとも思う。
今後も見たいイベントだけど、一方でこの勢揃いのラインナップでやるのは3年に1回くらいがいいかなと思う。
この大会きっかけに交流を持って、その流れをひとしきりやれば形になるもの、ならないものあるだろうが、選手の成長という観点でもそれを定点観測できそうだからね。
いずれにせよ定期開催してほしいし、かといってブランドにもしてほしい。
でも商業的なことだけじゃなくて本質的な底上げに繋げるような、長い目で見た展開を期待していきたいところだ。
最後に、主催者ヒロムの動画を紹介して。
最高でした。