続・論理プロレス論考

観戦の感想、レスラー個々、そしてプロレスを見る私と、様々な角度からあれこれプロレスを語りたいブログ

生きることのエンターテイメント

昨日は久しぶりのプロレス興行で、タカヤマニアへ。

 

試合中の事故で首から下が動かなくなって久しい高山、その治療のためのチャリティイベントとして不定期に開催されている。

 

今回はメインカードで柴田と鈴木みのるのシングルが第1弾カードとして発表されたのだが、私はその時点でチケットを取得。

 

柴田はプロレスを見始めた頃からずっとファンなのだけど、件の怪我により新日本ではリングに上がれなかったため、今は海外に拠点を移しているため、生で試合を見られる機会が極めて限られている。

 

もちろん映像ではその活躍は知っていたけど、やはり生で見たいのよ。

 

そして鈴木みのるはもはや説明不要のプロレスラーだ。

 

個人的には鈴木みのるがわからないやつはプロレスは一生理解できないとすら思っている。

 

そんな2人は派手な跳び技もしない、ゴツゴツとしたぶつかり合いの中にしっかりと技術が光るので、この組み合わせならもうこの時点で間違いない。

 

私が取らない理由はなかった。

 

その他にも全5試合のカードはいずれも名選手ばかり。

 

唯一の女子枠では、かつてGAEAであった里村と広田のシングルだ。

 

里村については引退も発表しており、残りわずかな試合ということで貴重だし、私は女子の中でも圧倒的に金のとれる、つまり観る価値のあるレスラーだと思っている。

 

対する広田もコミカルレスラーとして名を馳せているが、いうても技術はピカイチだ。

 

むしろコミカルをちゃんとできるためには技術がないとできない。

 

そんな2人の試合も期待だ。

 

そして結構びっくりしたのが、かなり久しぶりの表舞台と思われる井上雅央である。

 

まさか橋本・優于のTEAM 200kgとのタッグである。

 

対するはかつてノアで一緒だった秋山もいる。

 

ちなみにそのタッグには松本浩代もおり、私はこの子もマジでもっと売れていいと思っている。

 

身長も高く、スタイルもいいしパワーもあるし華もあるし、レスラーとしての実力もやはりピカイチ。

 

もはやカードが出た時点で満足以外期待できないわけだが、結論から言うとやっぱり最高でした。

 

 

先ず第1試合はタッグマッチ、佐藤光留・植木嵩行 vs 葛西純鈴木秀樹だ。

 

実は葛西以外は生で観るのは初めてだし、申し訳ないが植木という選手は知らなかった。

 

背中を見るにどうやらゴリゴリのデスマッチファイターらしい。

 

試合はノーマルとハードコアを行ったり来たりするような展開だったが、全体になんとなくコミカルだ。

 

鈴木についてはこの手の試合のイメージもなく、実際戸惑っている印象もあるが、序盤の佐藤とのグランドの展開など、さすが痺れさせてくれる。

 

この佐藤も変態レスラーというイメージが強かったのだけど、上記の通り技術はすごい。

 

そして体つきもバキバキにキレており、こんなにすごいレスラーだったのかとびっくりした。

 

にも関わらず竹串を刺されているし、それ受けるんだという驚き。

 

試合は葛西組の勝ちだったが、何故か終盤鈴木がレフェリーにちょっかい?を出している。

 

何か因縁でもあったのだろうか。

 

ともあれ、リングを降りた負けチームも、しっかり存在感を示していた。

シャンプーするとき辛そうだよな。

 

 

続く第2試合は里村vs広田、改シン・タカヤマヨシヒロだ。

堂々たる里村、女子プロの横綱は伊達ではない。

 

対するシン・タカヤマヨシヒロ。

もはやこのコスプレは定番となっているが、先の木村花の記念興行然り、ちゃんとリスペクトがあるし、動きもしっかり再現するのでファンから1mmたりともブーイングは飛ばない。

 

ちなみにこんな格好なのでまともに試合などできるはずもないのだけど、ビッグブーツやエセエベレストジャーマンなどちゃんと高山ムーブもやるあたり流石すぎる。

 

対する里村も、基本コミカルが得意なタイプではないと思うが、適度に付き合いつつしかいどうしても放たれるさっきがいいスパイスになっており、動きのキレもいいし、体も以前よりバルクアップしているし、まるで引退を宣言した選手には見えない。

 

最後はきっちり締めるが、試合後何事か言葉を交わしていたのが印象的であった。

 

 

続く第3試合は6人タッグ、秋山・石川・松本 vs TEAM200kg・井上雅央である。

 

まさか入場の最後を飾ったまさおだが、入場時からすでに足を引きずっており、すでに心配が募る。

 

実際試合が始まると、まともに歩くこともできないくらいだし、当然ロープワークもできない。

 

どうした雅央!と誰もが心配になるわけだが、面子を見れば一流ばかり。

 

しっかり試合は組み立てていく。

 

序盤は橋下が大男相手に流石の動き、優于もそうだがあの体型であれだけ早く動けるのは意味がわからない。

 

秋山とのレスリングの攻防も流石だし、終盤ではあの石川をジャーマンで投げ切ったのだから流石としかいいようがない。

 

そして雅央、秋山との懐かしいやりとりもあり、ファンもよくわかっている。

 

全然動けていないのだがブーイングなんて飛ばない。

 

雅央がんばれ!と誰も言わないが空気が伝わる。

見せるところは見せつつ、結局この試合の主役はまともに動けない雅央だったのが面白い。

 

プロレスってのは、多様性しかないんだよな。

 

ラストはエクスプロイダーを仕掛けたが、まともに受け身ができない雅央を見て丸め込みで3となった。

 

太々しさを最後まで見せながら、職人的にやり切った。

 

足をしっかり治してほしいね。

 

 

ここで武藤、論外のトークパートを挟んで、次はセミファイナルだ。

 

菊タロー浜亮太 vs 丸藤・男色ディーノという異色タッグ。

 

菊タローチームは揃ってマツコデラックスな佇まい、そして入場時にお馴染みのディーノのキスタイムは、なんと挙手制になっており、勇気ある男性陣が挙手してキスをして回るという謎の空間であった。

 

それにしても、まさかセミまでコミカルになるとは思わなかったが、注目は丸藤だ。

 

どこまで自分を通すのか、ディーノとの熱い接吻はあるのか、そんなことしかもう興味はない。

 

試合中もツッコミを入れたり愚痴ってみたりで丸藤なりに頑張っているのもわかるが、この辺りはディーノと菊タローは流石すぎる。

お馴染みのこのシーンであるが、このタイミングでは入らなかった。

 

なんの百戦錬磨なのだろうか・・・。

 

そして終盤、ついに丸藤が!

菊タローへのリップシンクで見事?3カウントとなった。

 

まあ、この辺りが手の打ちどころだよなと思いつつ、あの丸藤にこんなことさせたのだから大したものだ。

 

実は裏で、高山とも話をしたらしく、このカードも高山の意思も汲んでだったとか。

 

高山も何気にこういうの好きなんだろうな。

 

実際DDTにも出てたしね。

 

それにしても、ここまでの時点でどの試合もハズレがない。

 

一流が揃うとこうなるんだよな。

 

 

そして待ちに待ったメインだ。

 

柴田もみのるも生で観るのは久しぶり、楽しみしかない。

 

先ずは柴田の入場。

柴田だ・・・。

 

リングインして、あのロープワークを軽快に見せる。

 

おお、柴田だ!

 

ほんと、色気のあるいいレスラーになったよな。

 

そして鈴木みのる

なんか知らんがかっこよく撮れた。

 

もういい年なのにこのコンディション、流石すぎる。

こうして向かい合うだけでもう最高です。最高です。

 

序盤はそれぞれ総合の経験もあるのでグラウンドやコブラの取り合いなどの展開もあるが、不意にみのるが「おまえらこれが見たいんだろ」と語りかけると、逆水平合戦に。

 

どちらもそういうイメージはあまりないのだけど、これは解説で来場していた小橋への意識もあったのだろうか、そこからはひたすら逆水平の撃ち合いだ。

 

観客席にもしっかり雪崩れ込んでいくあたり、さすがすぎるのよ。

実質みのるが試合を引っ張った格好だが、殺伐した緊張感の中にしっかりエンタメを挟む、さすがなのよ、ほんと。

 

会場をぐるり一周しつつ、しっかり解説席に向かうと小橋も参戦。

初めはみのるを柴田が羽交締めにしているところに小橋が得意の逆水平をかますのだが、何故か柴田も自ら受けにいく。

 

瞬間つい表情がマジになってしまうのが流石の小橋だ。

 

いいチョップだった、私がプロレスにズブズブにされたのは小橋のせいなので、こういうのって嬉しいよね。

 

その後もひたすらチョップ合戦を展開しながら25分経過。

 

そこから試合が動いて、最後は柴田の勝利となったのだけど、ここまで来ればそんなことは些事だ。

試合後、握手を求める柴田の手を振り払うと、鈴木が座礼、それに応えて柴田も座礼。

 

マジで京平が邪魔すぎて、この後もずっとリング上をちょろちょろしており、個人的にはイラついてしまったのだけど、ともあれさすがの締めですよ。

 

先ずは柴田がマイクで話して、続いて締めのみのるの言葉を持って、出場選手全員を呼び込んでの記念撮影だ。

 

ちゃんと全方向に向いてくれたのが嬉しかったね。

 

そしてラストはもちろんみんなでのノーフィアーの合唱、かと思いきやここでサプライズ、高山本人の入場だ!

 

車椅子の高山がすんなり上がれるように、全選手がロープをすぐに外す。

 

みんなに担がれながらリングイン

 

ここからはずっとやばかったな・・・。

 

軽く撮影タイムを経て、高山が青コーナーサイドに移動すると、みのるが赤コーナーから対峙する。

 

急遽時間無制限1本勝負のアナウンスが。

 

ここからみのるはひたすら高山を煽り立てる。

 

「立てよ!立ってみろよ!」

 

それに応えるように高山も体をよじるが、残園ながら立てるほどではない。

 

腕も落ちないように肘掛けに固定されているくらいだからね。

 

首だけが動きながら、遠目にも明らかに悔しそうな顔で涙を流す高山の顔がはっきり見えた。

 

それでも叫ぶみのる、場内は高山コールだ。

 

会場のみんなもわかっている、まだ立てるほどの回復なんてしていないし、奇跡なんてそんなに起きない。

 

だけど、それでも不自由な体をなんとか動かそうというのはわかる。

 

でもできない悔しさが涙になって流れている。

 

リングの下では柴田も目頭を押さえながら顔を伏せる。

 

「お前が立たないなら、この勝負はお預けだ。お前が立ち上がるまで、俺はプロレスラーやってるからな!」というみのるの言葉でノーコンテストいなったのだった。

高山を抱擁するみのるの目にも明らかに涙が滲む。

 

そしてラストは、高山自らの発声でノーフィーアで締められた。

 

 

今回の大会は、私がプロレスを見ている理由全てが詰まっていて、これがプロレスだよなと思ったのよ。

 

いろんな価値観やスタイルがあるから、それらを否定しようとは全く思わないし、それぞれの面白さがある。

 

だけど、本質はそういう表面的なスタイルではなくて、詰まるところ試合などを通して見えてくる生き様こそが何よりの魅力で、だからこそ私はプロレスの試合を通してレスラーの生き様を見ているし、それにこそ勇気づけられる。

 

メインを戦った柴田は、先にも書いたように本当に生死の間にいたし、失明に近い状態からひょっとしたら命を落とす可能性のある手術によりリングに復帰した。

 

解説の小橋も腎臓がんを患って、そこから復帰を果たした。

 

みのるは大きな怪我などはないが、一時はメンタル面などのことで引退を仕掛けたがそこから最前線に立った。

 

彼らだけじゃなくて、一流のレスラーはそのパフォーマンスだけじゃなくて色んなところに生き様が出ているんですよね。

 

それをわかりやすく表現した金言が、葛西がかつてデスペラードに放った「プロレスラーは何があっても生きてリングを降りなきゃいけないんだ」という言葉である。

 

デスマッチレスラーの葛西がいうからこその説得力があるのだけど、でもこれは全プロレスラーにとって1番大事なことで、生きて戦い続けている姿が何より大事なんですよ。

 

雅央だってまともに走れないけど、彼は彼なりのレスリングをしっかり見せた。

 

三沢は無茶をしすぎてリングを生きて降りられなかった。

 

そういうこともたくさんある世界だから、ちゃんと生きてリングを降りることが大事なんだよ。

 

 

私の人生観とか価値観とか、そういうものの話になってしまうんだけど、やっぱり生きていくのはしんどいから、だからこそどう足掻いて生きていくかって私個人にとっての本当に大きなテーマなんですよね。

 

私には生き続けるための大きな大義も動機もなくて、正直しんどい。

 

たまに不意に自殺の誘惑に駆られることもある。

 

死んだら考えなくていいから楽になるからさ。

 

だけど、それって何かに負けたような気持ちになるし、少ないながらに自分を信じてくれる人たちに何も恩返しもできていない中でいなくなるのは不義理じゃないか、みたいな思いもあって実際にはまだ生きている。

 

生き続ける理由も動機もないけど、だからこそこうやって生きてやるぞって足掻いている人たちを見ていると、勇気づけられるというよりは発破をかけられるような思いがして、負けてられないなって思うんですよね。

 

感動ポルノという言葉があるけど、ほとんどの場合死ぬことについての悲しみを弄んでいる印象があって私は本当に消えて無くなってほしいジャンルだと思っているし、映画などにされるたびに最低最悪のエンタメ表現だと思っている。

 

でも、プロレスの見せているのはどう生きるかなんですよ。

 

別に命に関わらなくても、それこそ飯塚のように正統派だったところから怪奇派になって、そうしてでも生きていくことを選んでそのためにひたむきにやっている姿って、最高じゃないですか。

 

生きていくために必死なんですよ、だから意味がある。

 

 

高山が自らの足でリングに上がれる日が来るのを、私も陰ながら待ちたい。

 

仮に上がれなくてもいい、今回椅子から動けなかったところから、少しだけ体が浮く程度でもいい。

 

そんな高山の姿を、引き続き待っていたいですね。

 

本当に、メインの試合は年間ベストバウト級だし、この大会全体が近年稀に観る最高のプロレス興行だったと思う。

 

プロレスっていうのは生きることのエンターテイメントなんですよ。

 

だから、最高なんですよね。