続・論理プロレス論考

観戦の感想、レスラー個々、そしてプロレスを見る私と、様々な角度からあれこれプロレスを語りたいブログ

Mr. プロレス 小橋健太

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今日はついに小橋の引退試合である。
 
既に第一線から引いてからも久しくなってしまったが、ついにこの日が来てしまった。
 
まさか小橋がこんなに早く引退するとは思っても見なかった。
 
私は90年代の四天王プロレスと呼ばれた頃は知らない。
 
ノアになって、しかもちょうど三沢からGHCを奪取したあの試合の頃からのファンなので、言ったら浅いファンだと思う。
 
それでも、最初にプロレスすげぇな、と思わせてくれた選手だっただけに、やはり寂しい思いである。
 
 
小橋を殺すにはバーベルを取り上げれば良い、とかのジャイアント馬場に言わしめたほどの練習の鬼で、とにかく努力の人と言われた。
 
元々サラリーマンとして普通に就職したものの、どうしても夢を諦めきれずに脱サラ、そして全日本に入門した。
 
他の選手のようにアマレスのバックボーンもなければ、今で言う丸藤のような天才的なセンスがある訳でもない、そこだけ見ればただの大男だが、彼には何より努力があった。
 
ひたすら練習する事で鍛え上げられた肉体と、真正面からぶつかる無骨なファイトスタイルが、まさにプロレスの王道を示しているかのようであった。
 
 
あくまでノア時代の試合の印象にはなるけど、小橋は決して器用でもないし、スマートでもない。
 
正直思わずプッと吹いてしまうような技を大真面目な顔をして行うようなレスラーだ。
 
彼の代名詞といえば、相手をコーナーポストに追いつめてのマシンガン水平。
 
後半どう考えても失速しているのだが、最後の回転式逆水平で締めるというのが定番であった。
 
その後ダブルチョップを叩き込むようにもなったが、どう考えてもダブルで叩き込む必要性はない。
 
てか片手の方が体もうまく使えるから威力も高い気がするのだが。
 
観客の大半がそう思っているのだが、小橋はあくまで大真面目だ。
 
正直そういう部分は小橋というレスラーに対する支持率故のご愛嬌という側面はあっただろう。
 
 
そんな部分だけなら、一歩間違えばいわゆる天然系レスラーでしかないのだが、小橋はもちろんそれだけじゃない。
 
とにかく相手の技は全て受ける。
 
投げも打撃も全て受ける。
 
その上で相手を倒すから、その勝利には確かな強さが見えるのである。
 
プロレスの場合、受けの美学と言う言葉が存在するほど、相手の技を受けると言う姿勢が重要である。
 
それこそ三沢も受け身の天才、受けの美学と言う言葉をしばしば使われたレスラーだったが、ノアを共に立ち上げた2人とあって、そこはプロレス観が似ていたのだろう。
 
そんな2人のGHC戦は、俺をプロレスファンにするには十分だった。
 
 
試合当時はまだプロレスをちょこちょこと観始めた程度の頃だったので、正直な感想は訳がわからなかった。
 
元々K-1とかの格闘技から入って、半ば冷やかしでプロレスを観ていた嫌なタイプだったので、どうせプロレスなんて結果も決まってるんだから、ケラケラ、とか言いながら観ていた身としては、この人たちが何故にそんな危ない事をやっているのか理解できなかった。
 
避ければ良いじゃん、逃げれば良いじゃん、と思っていた。
 
挙げ句の果てに花道からの断崖式のタイガースプーレックとかやってるのを観たときはアホかと思って目が点になった。
 
実況アナウンサーの「小橋が死んでしまう~~~~!」というのも、もはや冗談なのか本気なのか和からなかった。
 
それでも立ち上がって見事勝利を勝ち取った小橋に、あのときは何打こいつ、よくわからんがすげぇな、と思った。
 
その頃からプロレスを見る目が変わったし、相変わらずプロレスが何をやっているのかはまだわからなかったけど、プロレスの楽しみ方がちょっとわかった瞬間だったね。
 
それからは色んな団体を見るようになったし、いわゆる格闘技よりもプロレスの方が面白いと思うようになった。
 
挙げ句こんなブログまで書くようになったのだから、世の中わからないものである。
 
 
三沢からGHCを取ってからの数年はまさに黄金時代。
 
絶対王者と言わせたその闘いは、誰が観てもそう呼ぶにふさわしい凄まじいものばかりだった。
 
極限まで体を張った試合はいずれもベストバウト。
 
小橋の試合には外れがなかった。
 
弟子である力皇に取られるまで、取られた試合ですら小橋はすごいと魅せてくれた。
 
 
しかし、その後やはり年の事もあってか、ケガが非常に多くなった。
 
チョップを多用するようになった影響か、肘などをケガするようになり、戦線を離脱する事も多くなった。
 
どんだけ思い切り叩き込んだんだよ、という噺であるが、いかにも小橋らしいようにも思う。
 
そして、そんな中更に激震が走った。
 
小橋がガンになった、というニュースだった。
 
ショックだったな、あんときは。
 
小橋が死んじゃうんじゃないかと思った。
 
ちょうど三沢が試合中の事故で亡くなってまだ間もないタイミングだったので、余計に悲しかった。
 
 
幸いにして早期での発見であったので、手術によりそのときは事なきを得た。
 
とはいえ、腎臓を片方摘出しているため、筋肉を作る為に高タンパク食を取るプロレスラーにとっては致命的とも言える状態であった。
 
それでも小橋は復帰した。
 
栄養調整をしながらも、体をなんとか作り上げて。
 
そのときのエピソードで、しょぼしょぼの体では客の前には出ない!と強い思いがあり、体が出来上がるまでは表には出てこなかった事があった。
 
小橋はやっぱりプロだったんだな。
 
ガンから復帰したプロレスラーはもちろん、他のプロスポーツでもそんな事は常識的にあり得ないのだが、それでも小橋は復活した。
 
その復帰試合で、試合後の実況アナウンサーの言葉はよかったな。
 
「小橋が勝ちました。ガンに勝ちました!」
 
このときには、ホントにこの人はプロレスラーだなと思った。
 
思わず震えたよ。
 
嬉しかった。
 
 
それでも他の箇所のケガもあって、第一線で戦う事は、難しくなっていた。
 
体も幾分細くなって、動きもやや緩慢になった感は否めなかった。
 
それでも体を張り続ける小橋を見られるのは嬉しかったし、でも反面でもう無理すんな、とも思う事がしばしばであった。
 
ほどなくしてまたケガの影響で長期の離脱を余儀なくされて、試合にもスポット参戦という形になって行った。
 
その間結婚もして、いいニュースもあったが、そんな事も手伝ってこれ以上小橋は現役を続けられるのか、という事は恐らくファンの多くは思っただろう。
 
 
そして、ついに昨年末頃に小橋引退の報がながれた。
 
 
そして今日、その日が来てしまった。
 
昨日ネット上で、近況の写真がアップされていたが、すっかり顔も痩せて、どうしても全盛期を思うと体のヴォリュームもなくなって、やはり限界かなと思う写真で、なんだか涙が出そうになったよ。
 
それでもこうしてキチンと引退を迎えられたのは、却ってよかったかな、とも一方で思う。
 
本人不在の10カウントゴングは聞きたくない。
 
それがファンとしての思いだと思う。
 
 
引退興行のチケットは、武道館が全席即完であった。
 
私は出だしが遅れたので、チケットをトリ逃したのだが、その後追加が出たので、そちらで無事入手できてよかった。
 
少し遠くになるが、それでもその場に居合わせられるので良かった。
 
 
最後の勇姿をキチンと観てこようと思う次第である。