続・論理プロレス論考

観戦の感想、レスラー個々、そしてプロレスを見る私と、様々な角度からあれこれプロレスを語りたいブログ

生き様

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遅ればせながら天龍の引退試合について少し書こうかと思う。
 
試合についてはYoutubeに上がっていた誰かの個人的編集版しか観ていないので、今週末のワープロを楽しみにしている訳だけど、その僅かな試合でも正直感動してしまった。
 
これがプロレスの魅力だろ、と言うことを伝えるには十分だったし、天龍源一郎というプロレスラーをリスペクトするには十分過ぎるくらいであった。
 
 
私が天龍を観たのは既に2000年過ぎてからで、当時53歳ながら新日本のリングで暴れていたときだった。
 
年齢を感じさせないパワフルでエグイ天龍がそこにいた。
 
当時年齢を関したその名も53歳という垂直落下DDTをよく使っていたのだけど、グーパンチと逆水平のコンビや、四つん這いの相手の顔面へのケリなど、これぞ天龍はその時にも健在であった。
 
全日本時代や、若手の頃の試合は見たことがなかったけど、元気なおっさんだなと驚いた記憶がある。
 
ところがその数年後には腰をやってしまい、大きな手術を繰り返すからだとなってしまった。
 
それでも試合には出ていたけど、腰が捻れないので逆水平は手で打つのみ、グーパンチも勢いはなく、常にコーナーポストやロープをセにした状態、まして投げ技もパワーボムも出来るはずもなく、観ていて悲しかった。
 
早く引退した方がいいよ、なんて思いながら観ていたのだけど、それでもリングに上がり続けた男はついに引退することになった訳である。
 
 
その引退試合で相手に選んだのは今やプロレス界のトップと言っても過言ではないオカダカズチカである。
 
まだ20代半ばと若いのにその技術もプロレスラーとしての試合運びも素晴らしいレスラーである。
 
私も彼の試合を見るまでどないやねん、と思っていたけど、オカダは本当にすごい。
 
そんな最前線にいる選手と録に体も動かない選手の試合である。
 
ともすれば引退試合にありがちな花を持たせるパターンもあり得たが、相手がオカダの時点で其れはあり得なかった。
 
そこにまず天龍のプロレスラーとしての生き様がある訳だ。
 
 
試合はお互いの技を受け合うこれぞ天龍なスタイル。
 
オカダも派手な技でごまかさずにオーソドックスな技で組み立てられるレスラーなので、見事にかみ合っていく。
 
天龍もグーパンチと逆水平、顔面蹴りなどでせめて、オカダはエルボースマッシュ、ドロップキックを基調に組み立てていく。
 
途中天龍は代名詞的な技を繰り出しいてく。
 
DDT、WARスペシャル、53歳、そして延髄斬りとパワーボム
 
はっきり言って技としての出来はどこまで行っても低い。
 
だから反面危険を伴うのだけど、それでも受けきったオカダはさすがの一言。
 
ラリアットなども体を浴びせるようにしないと威力は出ない。
 
しかし一度転がると立ち上がるにも一苦労である。
 
試合序盤でコーナーポストに押し込んでの逆水平を打っていった訳であるが、既に顔が苦しそうなのである。
 
それでも歯を食いしばって立ち上がる天龍の姿はやはり感動的である。
 
オカダが片膝をついた状態でやっと繰り出された延髄斬りを観た時には、思わず泣けて来てしまった。
 
そこにはプロレスラーとしての意地と自らの生き様を見せんとする彼の強さが出ていて、これだよこれ、と思わず唸ってしまった。
 
 
最後はレインメーカーで3カウントとなったのだけど、ここで敢えて自身のフィニッシュホールドをキチンと見せたオカダもやっぱりプロレスラーとして素晴らしいと思ったし、変に気遣うこともなくやりきったこと自体も素晴らしかった。
 
天龍のスタイルである受けきるということもキチンと示しつつ、その上でキチンと自分の試合にしているし。
 
最後まで淡々とした態度を貫いたけど、試合後に大の字になる天龍へ深々と頭を下げた姿、そして堂々と、振り返りもせず、アピールも何もせずに静かにリングを降りていった姿には、まさに介錯つかまつったといった風情もあって、若いながらによくわかっていると本当に感心した。
 
その後のインタビューで「昭和も平成も、プロレスは変わっていないですよ」と応えたというが、その言葉にはこの試合をして尚説得力を持っていた。
 
そして、最後まで「クソー!」と吠えた天龍は、やっぱりミスタープロレスである。
 
 
試合としては、まともに動けない天龍が一生懸命得意技を繰り出しつつ、其れを受けるオカダの姿が滑稽に映るかもしれないけど、そこにあるのは意地と生き様である。
 
別に楽しく気持ち良く送り出してくれよ、と言えば天龍なんだからいくらでも生温いことは出来たはずである。
 
それこそ藤原とかカブキとかもいた訳だから、同世代連中の懐メロに徹してもよかっただろう。
 
それでも自分の体に鞭打って、歯を食いしばって若手のトップと試合をする事自体、大きなリスクもある訳だから、それを妥協せずにやりきったその事に彼という人間を観る訳である。
 
それがプライドというものだし、彼なりのプロレスラーとしての矜持というものだろう。
 
この姿を見て何も感じない人は、人としてどうかと思うと言っていいくらいの試合であった。
 
 
私はプロレスが好きなので、男女、団体問わず割と広く観るのだけど、やっぱり感動できるものとそうでないものは明らかにある。
 
またレスラー個々に観ても、なんかこいつ今一だなと思うのもいる一方で、こいつは良いレスラーだと感じるものもある。
 
その違いは何かと言えば、やっぱりそこに生き様を感じるか否かである。
 
それって伝わってくるから面白いよね。
 
私が好きなレスラーはそれが出ているレスラーだし、それが感じられない奴には興味がわかない。
 
 
派手さや華やかさが前面に出やすい昨今にあって、ゴツゴツしてわかり辛いところもあるけど、本質は常に変わる事はない。
 
表面的な事ばかりではなくて、その背景に何を背負っているか、其れを観る事がプロレスを楽しむ一つだし、それに気づいたらやっぱりプロレスは面白いと思ってしまう。
 
 
ともあれ、天龍にはお疲れさまでしたと素直に伝えたいですね、1ファンとして。