全日本プロレスの分裂劇も一段落し、何かと波風を立てていた白石社長も積極的なメディア露出や会場でのアピールもあり、批判的な論調は納まってきた。
社長も全日本のオーナーという立ち位置に徹するようで、これからいよいよリングの中に目が向き始めるだろう。
ある意味では厳しい船出を結果的に演出した事に依って、全日本にとっては良かったかもしれない。
これまでの伝統というイメージにより固定化された見えない部分も間接的に見えたような気がして、ファンにとっても改めて気持ちを確認できたところもあったのではないだろうか。
興行的にも運営的にも当面は厳しいだろうけど、前途は必ずしも暗くはないと思う。
そんな全日本にとって一つ大きな収穫は、元横綱の曙が入団したことだろう。
これまでフリーとしてスポット的な参戦だったが、これからは一員としてツアーにも帯同する事になるし、当然タイトルにも絡んできている。
知名度でいえば抜群だし、なんだかんだ元力士はお年寄りにも大人気だ。
地方巡業では彼の知名度に助けられる場面は多いだろう。
ただ、一方で若い層からすれば、K-1での一連の試合により彼を見下すような風潮が相変わらず強い。
「あんな弱い奴が勝てるプロレスなんて所詮茶番だ、八百長だ」なんていわれてしまうのは、実に残念だ。
ここで残念というのは、そういう評価しか出来ない連中の感性について。
正直K-1に出ていた当時の曙については、私も好意的ではなかった。
無茶だろ、舐めんな、という思いですね。
所謂格闘技をやるにしては、彼の体格はあまりにも不向き。
立っているだけで汗かいてるようじゃ無理でしょ、という訳だが、今にして思えば運営の責任である。
その後の彼の動向を観ていると、個人的には尊敬の念すら抱くようになった。
武藤との出会いからプロレスに転身した訳であるが、元横綱という名誉をかなぐり捨てても、必死に彼は頑張っていた。
その巨漢はリング上では非常に見栄えがするが、一方で長時間の試合には耐えられないし、プロレス的な話をすれば必ずしも彼が汎用性のあるレスラーではないのは明らかである。
ヘヴィ級でも立体的な試合が求められるにあたっても、彼の体は正直大き過ぎた。
当然プロレスの技も出来ない中なので尚更厳しいと言わざるを得ない。
だから、デビュー当時はやっぱりキツかったよね、試合を観ていても。
だけど、最近はすっかりプロレス的な動きも身につけて、見事に適応している。
そして全日本所属という流れはいい流れだと思う。
この人は実は何かと苦労していて、元々横綱にまでなった人だからやっぱり親方になりたかったんだよね。
だけど、当時の角界のしきたりで外国人力士は部屋を持てなかったため、断念せざるを得なかったとか。
そこで次の食いぶちを探さなきゃ行けない中で格闘技に参戦。
当時のK-1のプロデューサであった谷川さんは元週プロの編集長でもあったので、プロレス的な視点から格闘技をやってしまいよくも悪くも話題になったけど、そこで年末年始の大舞台を用意してもらえたのは良かったのかもしれないが、見事な負けっぷりで「負けボノ」などと揶揄される羽目になる。
当時は10円はげが出来るほど精神的にも来ていたらしいが、それでもやらなければ行けないという状況でやっていたようだ。
その後にプロレス転身で、彼にとっては天職と言っていいだろう。
今は様々なリングで活躍しているし。
一度はトップにたった人間が生活のためとはいえどん底以下にまで不名誉な状況を強いられても、今はまた復活して頑張っている姿は、非常に素晴らしい。
外国人であるというコトでなんやかんや平等ではない扱いだった訳だけど、今日に至るまで歯を食いしばって踏ん張った訳で、それをまだなんやかんや言う奴はただのクズだ。
本当のプライドという言葉の意味をこの人を観ていると考えさせられるよね。
今度三冠戦も決まって諏訪間とやる訳だけど、結果は同であれ、こうして第一線に出て来れるようになったのは一重のこの人の努力だし、これから浮上して行かなければ行けない全日本という団体にとっても、単に看板として以外にも非常に重要な立ち位置になりそうな選手である。
これからも頑張ってほしいものだ。